今夜宇宙の片隅の言葉たち
紙に書き連ねば残らなかった言葉たちが今ではネット空間にあふれている。
誰も読み終えていない世界で最も長い小説はヘンリー・ダーガーという人が書いたものらしい。ずっと書き続けて最後はThrow away(捨ててくれ)と言ったとか。
踊り念仏で知られる一遍上人は死ぬ前、それまでに書いたものを焼くように指示したという。書き物が残っていればもっと広く深く知られていたはずだ。
神学者・哲学者であったトマス・アクィナスは「神学大全」執筆中に宗教的洞察を獲得し、以後書くのをやめたという。神学大全は日本語訳で45巻、これでもトマスの全著作の7分の1だそうだ。
毎年この時期になると来年の手帳・日記が売り出される。
中には5年・10年日記なるものもあって、人々の書くことへの意志の強さをうかがわせる。
書くことは何も職業人の専売特許ではない。
今じゃネット空間で書き放題。放たれた言葉たちは波間のように終わることがない。
中には読まれることなく綴られている文章もあるだろう。それでも保存され届けられるのだ。宛先不明、今夜も宇宙の片隅で。