西田もじのブログ

日々雑記を綴ります

惚れた腫れた切った張った

時代小説を買いに来たお客さんが、レジで僕にこう言った。

「若い頃はね、惚れた腫れただったけど、この歳になるとね、切った張ったの方が面白いんだよ」

時代小説は常に一定の人気があり、チャンバラ物や人情物、中には恋愛ものもあるが、ほとんどは時代考証にこだわって描いているので、時間旅行が楽しめるのだ。特にこのジャンルは、池波正太郎平岩弓枝藤沢周平山本周五郎など錚々たる作家がいて、近年では佐伯泰英という超ベストセラー作家が作品を量産、不動の地位を築いている。

当時僕はそんなものですか〜とあまり関心を持たなかったが、それでも何冊か読むと確かにすごい。面白い。でもその凄さ面白さは人間を描いている凄さで、時代小説というジャンルに興味を持つものではなかった。

 

幼稚園の年長さんだった頃に先生が、「はい、じゃあみんなそれぞれ自分の名前を書いてねー」と平然と言った。みんなそれぞれ自分の作った工作物に名前を書き出した。ひらがなだ。僕は書けなかった(小さい頃からからどんくさかった)

書けないでうつむいてかたまっていると、一人の女の子がそばに寄ってきて、

「あたし書いてあげるー」

と明るい声でささっと書いてくれた。

 

その女の子とはそれっきりだったが、中二の時に同じクラス、隣の席になった。内容は忘れてしまったが、僕が何かの係をやることになって放課後一人で書き物をまごついている(どんくささは変わらない)と、その子と他二、三人の女子がそれを手伝ってくれた。

 

惚れた腫れた切った張ったどれもない日々だけれど、出会ってくれたさりげない人たちは元気でいるかなあと時々思う。